<2004.11.15〜> 出猟日記2004

<始めに>
2004年度 狩猟解禁日は 激しい雨の日で迎えた
このところの 猟友の高齢化と山野の荒廃 私達を
取り巻く環境は 更に厳しきものと成りつつあり
変化に立ち遅れる事無い 判断対応が求められる。
活動地区の住民等にも 求め歓迎される存在と育つ
為には其れなりの姿での 行動が必然なのだろう
今一度 多くの好意思い遣りに成り立つ事と認識し
常に感謝の気持ちを忘れる事無く 生業の一員と
なれれば素晴らしい。 

                        oozeki
<2004.11.21> 曇り
狩山の裏表で鳴り響く銃声 しかし未だに朗報は届かない・・・ 私に付いた犬を呼び戻すよう 下段の勢子に
大声で告げると 其の方向を確認して一気に其方へ跳んで行く新田犬。
向こうの尾根を鹿が跳ぶ 牡らしいが木の葉も落ちきらず 逃走線上での動きが捉えられず引き金は搾れない
あの方向は 何れ谷へぐるり配置した待ち場へ向うものだろう しかし発砲は無い ・・なぜ・・
直角に切れ込むこの山の肩辺りで行き来していた二頭は 此方へ向っている様だ 合流した勢子と薄暗い
森の中で緊張の瞬間にも 向こうの原に姿を確認 ”やれやれ 逃げ切られたか” 先頭が手元へ届く頃合で
後続の1頭がUターン 先程降りた藪へと突っ込む どうやら其処まで逃走 我々と挟み撃ち状態で 藪中へ
逃げ込み身を潜めたらしい もう逃げるルートは無い 囲い込んだ谷待ち向け落ちて行くだろう ?????
”ドォォン”鳴り響く銃声 山々は静けさを取り戻した。 

<2004.12.5> 雨のち曇り
止んでいた筈の雨が 何時の間にか雨具の肩を濡らす 冬場特有の通しの強い風が 良く育った檜林を揺らし
細かい枯葉を横殴りに運ぶ まるで吹雪の様に・・・・・
山裾から追い込む勢子は イヤホーンの奥で何やら叫んでいる どうやら三頭の鹿を起し 角の確認まで出来
たが 発砲までは至らなかった様だ 足元から広がる向かいの斜面 鹿が辿るだろう 逃走ルートを目線で追い
立ち木が邪魔に成るが ひとつ位は止められるだろう?  追い鳴きはや々下段で二度三度! 更に下へと
追い込む様だ その方向には三人が待ち構えてる よしよし・・・  二度の発砲音! 首尾は???

<2004.12.12> 晴れ
『おい 三の叉が居るぞ』 遅れて上がる猟友が 抑えた声で伝えて来る!!! 離れた尾根を這い上がり
車の迎えを受け 集結場所へと戻ったばかりだった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・『どこ?』 『谷の中』 銃を手に
花崗岩砂岩の白い川原が覗ける位置へと駆け出した  ”バシッ” 谷中向け放ったらしぃ 30カービンの
乾きくぐもった発砲音! 間に合わないか? 高低差70bばかりの路下は 崖と云った形の急斜面だが
迷わず身を投じ 滑り落ちる様に白く広い川原に立った 逃走を図る三つ又は 手負いと成れば下流に落ち
まともに向ってくる筈   ・・いやぁ なんとも色々有る日だ事・・

<2004.12.19> 晴れ
『そこいらで放してみぃ!』 犬をかけるにはまだ先なのだが 激しく引き出す事で其処からの放犬を告げた
解き放たれた二頭は 辺りの極狭い範囲を駆けずり回り等々鳴きが入り出した! 今我々の立つ場所は
両側が低木と藪に覆われ 其処だけが切り開かれた尾根道で僅かでも見通せる位置を求め走った・・・・・・
犬は同じ場所で吠え込み動かない 猪か? 其れとも樹上に上げた青年団(猿)? このまま谷向け下れば
左手の尾根先とその裏側 真っ直ぐ走ればひと谷超えた処に三名 右尾根を越えた所にはもう一人居る
何処かに顔を出す筈相手を動かさないと・・・ 上から忍び寄ろうと動き出した其の時 首輪に付けた鈴の
音を響かせもう1頭の新田犬が寄って行く!!! 引き金を引ける唯一の方向へ跳び出す事を期待 じっと
待ち受けるが 追い鳴きは意に反し右手の藪中を駆け上がる 其の前を行く筈のモノの姿は確認出来無い
ひょいと今駈けて来た尾根道を越え反対側に入った? ものの数十b行けば車を置いた林道まで出てしまう
”おかしい?” 林道近くで再度鳴きが入った 今度は野獣が踏締める地響きも伴う 猪か! ドドドドと尾根道
へ跳び出したのは鹿 引き金に指が掛かるが其の先30b藪中の何処かに勢子が居る筈 絶好のショット
チャンスを逃した 元居た山立ち木の中を駆け下る白い尻向け撃ち掛けた!  勢子は何処に行ったのか?

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<2005.1.23> 晴れ
降り続けた積雪は可也のもので 奥へは車の進入さえ難しそうで 全員其処から各所へ散 直ぐそこの谷を
登り出す・・・ 入り口から落差厳しい数段の滝で 其の頭をモノは抜けると云う 大きく迂回しつつ滝の上へと
立った もし足を踏み外せば間違いなく命は無い物だろう 後ろを必死に付いて来た年配のBさんにその要所を
任すと 更に腰までの雪をラッセル 急な谷の壁を泳ぐように一歩々押し上げる もう殆んど主尾根テッペンに
近いのだろう 植林が為されダラリ開けた場所へと出た モノが谷を渡ればきっとあの辺り 射撃チャンスも
得られるかもしれない 倒木の陰に雪を押し分け射座を構え 静かにマイクを握りGOを告げた・・・・・・・・・
耳かけ式イヤホーンの奥で モノの動きを勢子が叫んでいる そろ々来るか?   前面や々下手枝尾根から
姿を現した鹿は 雑木の間をチラ々駈け下る ”Bさん 行くぞ” 声を潜め告げたが発砲はない?  なぜぇ?
考えてる余裕さえ無く 同じ場所より今度は 主尾根向け上り出した6〜7頭の群れ 其の辺りは3.40年物の
檜が立ち並び 断片的にしか姿が見えない 常緑樹のスクリーンの中で 其の群れは立ち止まった! 
一息入れたのか 或は逃走ルートの模索なのか?? しかし先頭が向く鼻先は此方の渡りではではない  
其処一点しか見通せない位置 其の群れ一番の大物と見られる牡が 上半身立ち木の陰に隠し 尻だけ
出して居る 其の距離100bは有るだろうか? 此処で撃たなければ もうショットチャンスは無いかもしれない
静かに銃を上げると 充分に引きつけ引き金を搾った ”バシッ” 一瞬弾けた様に跳び散る群れ 枝葉の間に
確認出来る姿の多くは 淡い色の牝鹿で ターゲットの後姿は見当たらない  ”おい 止まったみたいだぞ?”
マイクに告げると 背嚢を背負ってなかったのに気付き 山向こうの仲間へ搬出応援を求める
<第二幕>
深い積雪の中 たかみの尾根待ちを捨て山裾の待ちで固めた 鹿はやはり部落の直ぐ側に 寝屋を構えており
痕跡を幾つか見送りながら この狩り山一番の待ち場に立った 車で待機の川待ち一名と勢子の動き出しを
連絡静かに銃を握り直した 勝負は早い  大きく回りこんだ向こうの谷で 何やら私の名前を連呼してるらしい
しかし此処からでは受信出来ない 中間からのリレーで どうやらひとつ止まったらしい しかし彼は何を伝え?
<2005.2.6> 晴れ
やはり積雪は多く 何度かの車輌脱出を経て分岐点へと辿り付いた 倒木が路を横切り前進することを拒む まぁ
幾等も行かずに 雪の壁が立ちはだかるのだが。   勢子を入れる地点まではとても辿り付く事は出来そうにない
作戦の練り直しにと入った 思い付く事はふたつさて? 数日前の大雪の中この山へと入った猪が 未だ抜け出して
居ない事を念じ 変則的な狩り方を図る あくまで猪向けての谷待ちの位置確認 三名と別れ雪深い林道上を歩き
始め山の裏へと向う 積雪は一旦溶けて固まる 一番歩き難いものではあるが 其れは追われるモノにとっても同じ
条件と成って来るだろう。   遅れ出していた年配のMさんに 構える待ち場の位置を無線で確認 ”大丈夫だよぉ”
返事に先を急ぐ 大きく回りこんだカーブで Bさんを小生えの中太い檜の根元に導き 猪の駆け下るルートを指し示す
大きく頷くBさんを置いて 先行していた勢子Kさんに追い付くと 大きく迂回して最近使われていない登山道へと入る
暫らく上ると 皆が待ちを構える狩り山の頭へと出た 二頭の犬はイキミだしモノが近い事を知らせる 其処で上下に
別れ 自らは下の中待ちへと立ち声を掛けた ”そこいらでええやろぅ” 放たれた二頭は 一気に私の傍らを掠め
一番可能姓の強い斜面向け跳び込んだ   バンバン! 勢子による二度の発砲 ”猪だ々 大きいぞぉ”理想的な
展開となった 一気に下れば二人が 其のまま横へと這えば先程の二人注文道理・・・・・・・・・・・・・・・・・鳴らない?
なんでぇ? 待ち場を嫌い この積雪をものともせず 尾根伝いに奥へと向うのか? 迎え撃つ体勢で銃を上げた
・・・尾根先端方向から 此方向け放たれた発砲2度! 射手はMさんらしいが 興奮極まり無線の声は途切れ々の
意味不明 此方の応答もつい荒っぽくなっちまう どうやら猪は止まったらしいとの事やれやれ ホッとしたのも束の間
同じ方向から又一発 もう1頭Mさんが座った処を駆け抜けたらしいが 今度は不意を付かれ失中したらしぃ 此処より
10分あれば行ける 其方へ向おうと数十b移動した其の時 右下段を駈け抜けんとする鹿3頭 つい無意識に後続の
若牡向け撃ち掛けてしまった ”まだ撃ってる””誰だぁ”・・・・・・・”あかん 余分なもん撃っちまったぁ” 鹿は反対斜面
山裾向け 転がり落ちていった

<2005.2.13> 晴れ後雪
昨秋 この地を直撃した台風23号は 荒れ始めていた林道を追い討ち 数箇所の谷からの出水による寸断 迂回を
止む無くされる 雪どけは進んだと云え量はまだかなりの物で 上り始めた谷間は腰丈程の積雪 踏み抜いては
這い上がりの連続に 何時もの数倍時間を要し尾根へと出る  其処へ一人置くと勢子と二人 南向け張り出した
障子(雪庇)の上を辿る 気温が上がり体重が支えきれなく成れば 更に行動の自由を奪われるだろう しかし其の先
大事な待ち場へは辿り付かなければ 船の舳先宜しく張り出す障子の上に立ち勢子に ”この状況では ここへは
上らないだろう 谷待ちの二人向け追い込んでくれ” 別れて直ぐ 二頭の犬に引き回され 滑落の危険を恐れ
その場からの放犬を決めGOの号令。   一気に鳴き下った二頭は 待ちを構える反対側の山で ”ヒャンヒャン!”
何やら変な鳴き方を? 猪かな??     その内先程置いてきた尾根待ちが発砲 イッパツ ニハツ サンパツ
間を空け 頃合を見計らい ”どうじゃぁ” 声を掛けるが返事が無い?  更に ヨンパツ ゴハツ? 勢子と谷待ちが
”だれじゃぁ” 騒ぎ出す ”○君の花火大会だぞぉ” な事言ってたら ”鹿ひとつは止まったみたい” 息切らした報告
よし々・・・・ 其のままでの待機を告げ 犬が戻り次第 猪の寝屋向け突入を勢子に告げ 首輪の発信音を拾わんと
主尾根へとよじ登る 勢子は一足早く帰った1頭を引き要所へと向う 可也降りるも猪のワリは見当たらない様だ・・・
勢子の声が力無く響く ”おぃ油断するなよ 動きが無いだけかもしれん先週の例もあるぞ” ”ほぉぉい” さて此処は
もう要らないだろうと 尾根待ちの鹿回収向け歩き出すと 下で発砲! ”だれじゃぁ” ”おれぇ々一発だぁ” 嬉そうな
勢子の一報 どうやら寝屋起しで止まったらしぃ 谷に向け落とす様に依頼 私は其の前にひと仕事が待っている
この時 四時間を越す 大搬出騒ぎが待つとは 思いもせずに

猟期を終え
どれほど齢年月を経ても 未だ見知らぬ世界を垣間見る 瞬間々はときめくもので 
新たな感動への出会い 其の行き着く先は どうやら少年時代の憧憬と同じ様です
多くの人々の思いや 目には映る事も無い大きな力とに見守られ 明日も生かされる事に
 ・・・・ただ 感謝・・・・